時効と民放の改正
1 債務整理と消滅時効
債務整理のご相談の中には、その対象となる債務について消滅時効期間が経過しているものが含まれている場合もあります。
消滅時効制度は、消滅時効期間の経過により当然に権利が消滅すると規定しているわけではなく、債務者が消滅時効を援用してはじめて消滅すると規定していますので、貸金業者や債権回収会社等は、消滅時効の援用がなされるまで債務者に返済を催促し、または支払督促や民事訴訟といった裁判所の手続きを利用することもあります。
このような貸金業者等の手続きに対し、分割弁済の約束をしたり、裁判所の手続きで時効の援用をしないまま判決等が出てしまうと、時効期間は振出しに戻ってしまいますので、弁護士に相談し、適切な対応をすることが重要となります。
2 消滅時効と民法改正
消滅時効については、2017年に改正され、2020年4月1日から施行されています。
ただ、「施行日前に債権が生じた場合」または「施行日前に債権発生の原因である法律行為がされた場合」には、その債権の消滅時効期間については、原則として改正前の民法が適用されますので、本稿を執筆している2023年の時点では、債務整理で問題になる貸金業者の貸金返還請求権等の債権については、改正後の民法が適用される事例はまだないということになります。
3 改正前の消滅時効
改正前の民法では、債権は権利を行使できる時から10年で消滅すると規定していました(なお一部の種類の債権についてこれよりも短期の消滅時効が定められていました)。
ただ、商事債権(商行為によって生じた債権)については商事消滅時効の規定が適用され、5年間権利を行使しないと時効消滅しますので、消費者金融等の貸金業者やクレジットカード会社の貸金債権、立替金債権は権利を行使できる時(通常は期限の利益を喪失した時)から5年で消滅することとなります。
この例外は営利を目的としない貸付機関による貸付債権で、例えば独立行政法人日本学生支援機構の奨学金や、信用金庫・信用組合による貸付金については、商事消滅時効が適用されないため、民法の原則通り時効期間は権利を行使できる時から10年になります。
4 改正後の消滅時効
消滅時効についての民法改正により、債権の消滅時効は、①債権者が権利を行使できることを知った時から5年が、②権利を行使できる時から10年を経過したときに時効消滅すると規定されました。
あわせて、短期消滅時効制度は廃止され、商事消滅時効の規定も削除されました。
前述したとおり、改正後の消滅時効が適用されるのは改正法施行後に契約を締結して借り入れ等した貸金債権や立替金債権になりますが、銀行や消費者金融、クレジットカード会社の債権については、基本的に①が適用されますので、改正前と同様、消滅時効期間は5年になります。
一方、独立行政法人日本学生支援機構の奨学金や、信用金庫・信用組合による貸付金についても、基本的には①が適用されますので、改正法が適用される債権については、消滅時効期間は5年となり改正前よりも短くなることになります。